往診の思い出/板谷みきょう
 
かり抑えててくださいよ。」
ボクはディスポシリンジを袋から出し
22Gの針を付けアンプルをカットして
アンプルから薬液を 吸い上げようとしたが
怒号に萎縮してしまい
手が震えてなかなか定まらない

やっと、用意して医師に渡すと
医師は駆血帯も巻かないままで
静脈注射を始めものの数分で
大暴れしていた男性は鎮静した

ずっと押さえつけていた複数の男たちから
「凄いクスリだ。」驚きのため息混じりの声

ぐったりした男を救急車まで運ぶ手伝いを
お願いした医師にデスクの男性が
「先生、あの男はシャブ中で入院するけど
守秘義務があるから警察には通報しないでしょうねぇ。」
そうして笑みを浮かべた

2005年7月19日の最高裁で
「覚せい剤取締法違反被告事件」の判決※
が決定される前のこと

※主文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/093/050093_hanrei.pdf













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