夜半消えゆく音に (散文詩にしてみました 1)/AB(なかほど)
拠に、明日の仕事のことを少しでも思
い出すと簡単に消えてゆくのです。
それより以前、僕の育った頃の家のまわりは
まだまだ田舎で、この季節にはうるさいぐら
いの虫の音とともに、そして冬には木枯らし
の音なんかと寝入っていたのだと思いますが、
近くに建てられた県立病院に向かう救急車の、
サイレンを二つ三つと数えない夜はありませ
んでした。
サイレンはやがて止み、しばらくして耳が闇
の音に慣れてくる頃に鳴り止んでいた、ある
いはかき消されていた物音に、再びあやされ
るように眠りにつくのでした。
そんなわけで、今日は風の音を聞いて寝ます。
僕の家はもう県立病院の近くではありません
が、どうか朝まで、その音を消すものがあり
ませんように、と。
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