陽の埋葬/田中宏輔
 
、スクリーンが明るくなって、若そうな男が、頭を肯かせているのがわかった。女装の彼女の声は、映画の音に比べるとずいぶんと小さなものなのに、耳を澄ますと、はっきりと聞こえてきた。人間の生の声は、機械から聞こえてくる人間の録音した声と混じっていても、けっして混じることなどないのかもしれない。どんなにかすかな音量の声であっても、ぼくには、それが人間の生の声なのか、録音された声なのか、はっきりと聞き分けることができた。むしろ、かすかであればあるほど、よく聞き分けることができるように思われる。山羊座の耳は地獄耳だと、占星術か何かの本で読んだことがある。「気持ちいい?」と、女装の彼女は尋ねていたのだ。男は訊かれ
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