偽聖母/逃げ水の男/ただのみきや
 
ように遡って




天使の翅のようにゆっくりとほどけていった
あの雲は骨より白い

逃げ水の上に倒れている
男のポケットにメモがあった
瞼からは群青のインクが滲んでいる
なにかを持ち出して
自分を落としたのか

燃える蝶
一枚のガラスにとらわれた季節

白紙を占有する
一本の杖を立て
一本の卒塔婆とする
見つめる者の視界にだけ幽鬼はいる
けむりのように歩き風のように嘯いて




窓を開けろ 頭から
アイスキャンディーが下着の中で溶けちまう
オットセイと蜂蜜の鍾乳洞
微笑みは苦い星屑で
足元を危うくするだけだ

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