偽聖母/逃げ水の男/ただのみきや
 
ひと晩中つよい風が吹いていた
翌朝いつもの道には帽子をかぶった
まだ青いドングリがいくつも落ちていた
幼子の首のように見えた
自然の範疇 織り込み済み
きりさめ交じりの風が嘯いた
境目などとうに失っていた
過剰なほど降りそそいで
瞳を埋葬するみどりのささめきよ
はだけた夏のがらんどうの乳房よ
この血だまりを相殺してくれ
ああ愛人よ
こんな母ならぬもののへその緒からわたしを解き放て
舌の上で倒立する一本の鑢として
感傷の踏み絵の前で
ひどい酔いどれ ひとりの狂人として
赤裸のまま送り出してくれ
最後の一本のマッチの使い道を誤るために
あの女の皮膚の下を入れ墨のよう
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