旋律/医ヰ嶋蠱毒
静かに月を殺めたばかりの
眼窩より砂粒を零している
埋没した幻視を復元する為に
母の腹を裂き
網膜を潤してから悪夢へと潜航すること
(大群は囀りに非ず)
(大群は囁きに非ず)
私が私であるところに由来する
緩やかな壊死の痛覚を天秤に掛け
恐怖を反定立として止揚した先へ踏み込む片脚の
剥き出しの神経が標を示すころ
吹曝しのままで震える脳髄の塔
黒衣を纏う無貌の奏者が口許を歪ませ四弦目を爪弾く
「貴方の五感を」
「北の心臓へ吊るしなさい」
肉體の底の色をして
白骨を暴く陰鬱な音色が聴こえるだろう
生きながらに貪られてこそ
私は反芻される問掛けにより世界から分娩され
秘匿されていた本義において再び産まれ得る
「ただし、叫んではなりません」
横臥する私の耳朶を撃つ羽搏き
血塗れの挿画を這う蟲達の跫音
巻線を擦過する弓の軋みは
開かれた窓の風に鳴る様によく似ている
(大群は囀りに非ず)
(大群は囁きに非ず)
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