プラハの桜/たもつ
 

この都市の堅く強靭な椅子に
座り続けることで刻まれた
皺のひとつだった
中庭の洗濯物を揺らし
路地を吹き抜ける風に消えていく
いくつもの皺のひとつ
ヴルタヴァ川を
重く低く流れる年月に
桜吹雪が舞い落ちる

窓を開けるとプラハの音は
あっけなく終わり、外にあるのは
日差しと湿気が
どこまでも果てしなく続く
この国の夏だ
終わらない夏に産まれ
終わらない夏に死んでいく
儚く、強かな命だ

トーヤマノキンサン
もういないよ




(初出 R5.8.12 日本WEB詩人会)
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