百鬼百景/ただのみきや
いまは夏休みということだ
同じアパートの一年生がアサガオを持ち帰り
朝晩水をやっている
ここ数日の暑さも少しやわらいで
きょう風はさかんに木漏れ日をゆらしている
濃い影から飛び立った 一羽のカラス
その嘴からネズミの尻尾がはみだしていた
*
墓地を周遊する黄色い蝶
水に映った青葉にそっと降りかけて
斑(むら)のある雲と磨かれた石
どちらがどちらを映してか
生はゆがみ
死によってその座標は定められる
記号は仮面
仮面は無言 無言の代言者
かたちあるものはないものを
うつろうものはあらがうものにより
刻む
喪失と対をなす硬質のま
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