天使 (群馬県館林市にて)/ばんざわ くにお
臨終の時が迫ってきていた
母と娘で長年過ごした
平屋のあばらやで
床に臥せっていた母は娘に言った
今まで苦労を掛けてごめんね
一生貧乏な暮らしで終わった
自分の人生に付き合わせた娘に
母は詫びた
娘は言った
いいえ お母さんと一緒に暮らせて
幸せだったのよ
貧乏なんか何とも思っていないから
その瞬間
すき間だらけのあばらやに
風が吹き込み
娘の後ろ髪がゆれた
この世に神も仏もいないが
この家には天使がいた
神なき時代の天使
臨終の時が迫ってきていた
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