富士/ベンジャミン
裾に広がる森の緑
雲よりも白いその頂は
はるかにそれを越えて空をさす
足元ばかりを見つめるような日常にも
そうやって見上げる景色があり
富士はまるで矢印のように
その向きを教えてくれているのだ
頂に閉ざされた万年雪は
それでもゆっくりと融けだして
深く浸透しながらやがては湧き水となる
その高さから見たであろう喧騒を
微塵も感じさせずに透き通り
その恵みを得て
森は広がっている
踏み込んでしまえば
そこは見通しのきかぬ迷い道
向かうべき方向を失えば永遠を彷徨う
そのとき
不安の底から
富士を見上げることができるだろうか
森の入り口で
ただ怖れ
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