スパイダーマン/本田憲嵩
 
かれて少女が夏の戸外へと出てきたとき、その透明な傘の先端をこちらへと向けてそのままの状態で開いてくる、その八角形の透明なビニール製の生地ごしには、彼女のクセのない顔の輪郭がわずかにぼやけながらも、その輪郭と透明感がよりいっそうクローズアップされているようにも見えた。白いスカートの足元からのぞく二足の白い靴は、雨にぬれたアスファルトの上、そこに溶けだしたわずかな泥やそれに混じっているゴツゴツとした小石なんかをときおり踏みしめながら、その白いスカートの裾がそれらに触れて汚れてしまうのではないかと思われてしまうほど路面すれすれのところをあるいてゆく。けれども俺はけっして声をかけない。彼女も俺もそれぞれ正反対の方向に過ぎ去ってゆく――。


だって俺はスパイダーではなく、スパイダーマンだから。


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