スパイダーマン/本田憲嵩
もうどこを見まわしても見あたらない、かつての巣の主に固執して、海の近くにある電話ボックスと送電線のあいだに張り巡らされた、とうめいな八角形の蜘蛛の巣に、その手足と触角をみずから余計に絡ませて、そんな複雑に絡まった恋の糸を、なかば強引に二本の指でひき?がす。手の平から大空へとよろめきながらも羽ばたいてゆく、その白い蝶の大きな羽。
晴れているのか曇っているのかよく分からない
ひかりと雨がいっぺんに降りそそいでいる
海の近くにある電話ボックスの中、閉じたビニール傘を手に持った白いワンピースを着た一人の少女がいた。だれかに電話をかけているわけでもない。電話ボックスのドアが静かに開かれ
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