ものうい夏 /ただのみきや
 
まれた壁の中はうつろ
世界と対峙するためのそれは
いつしか閉ざされた牢獄ともなり

わたしという希薄
あるのやら ないのやら

  *

その瞬間を思い返せば
一枚の被膜のようなもの
限界まで引きばされて
やがて破れて
萎れていった
そう 
思い返すことしかできない
それは嘘を血液としている
水と魚のように
知覚と記憶
時計とまどろみ
剥がれて落ちて離散して
そこかしこに浮かんできらめく
銀箔の欠片たち
唇に指を押し当てて
干しブドウの甘さでしびれさせる
そう
思い返すことしかできない
瞬間は何度でも創作されて
磨かれ続け 
やがて記号化する
彫像の形をした空洞
喪失の鋳型
感じても見出だすことのできない
一つの痛み 鮮烈で顔のないアイコン



               (2023年7月17日)








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