遠く、遠い……/朧月夜
 
い出など、
懐かしくはない。すべてが、
忘れ去りたいという衝動の副産物で、
今という痛みに触れる。

ああ、やはり、
そうだったのか?
この風がわたしに全てを感じさせる。
遠く、遠い記憶。

思えば、風の精霊、
空の精霊、海の精霊、彼ら全ての、
統一された意志の賜物のようだった。
わたしの心理と記憶とを侵食する……

もう帰る場所などない。
わたしはすでに「帰って」いるのだから。
後は失うばかりだと、
神の啓示に反抗もする。

あれは遠く、遠い、
浜昼顔の咲く海の岸辺。
わたしはただ歩いていた。
夢もなく、目的もなく……。
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