それぞれの孤独/朧月夜
 

そして、病院のレクリエーション・ルームのように、

全てを受け入れ、全てを諦めて、
大海を泳ぐちいさな魚の群れのように、
ただ、見上げる月を見上げていれば良かった。

声を失った人魚のように、
ただ一瞬の休息にまかせていれば良かった。
春は去ったね。夏は去ったね。
僕たちの食べごろは今?

ああ、僕たちの居場所はどこに?
ただ、月の明かりを見ていれば良いのだろうか?
ただ、深海魚のように沈黙していれば良いのか?

いずれにしても、答えは出ない。
答えなど出してはいけないのだ、と、
先刻の人魚が僕たちに語り掛けてさった。

月は明るい。月は明るいよ。
せめて、暁の時が明日まで訪れませんように。
何もないのだ──きっと。

何もないのだ、きっと。
見上げる月が一人孤独であるように、
皆それぞれがそれぞれの孤独を託つ。
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