夏/山人
 
願いが叶わなかった日
遠く、命の向こう側から聞こえてくるのは
ニイニイゼミの声
毛穴から染み入り、毛細をとおって
脳内に聞こえてくる

頭上を爆撃機がかすめて飛んでいた
なのに街は箱庭のようにじっとしていて
音は暑さで凍っている

モンシロチョウは健康にはばたき
空間をよろこび
命の光をばらまいている

夏が
苔むす身体の中に
無造作に入り込む気配がして
ふいに荒れ地を見ると
そこに忘れていた
現実の草たちが無造作に生え続けていた




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