ただの呼吸/asagohan
 
速度0から
バスがゆっくりと動き出す。
時間は命だ。
そんなのは嘘だ。

ただ、私は時給0円で待っている。
家につくのを。

景色が展開する
街が離れる。
ごちゃついたものが
夜の深みに消えていく。

通り過ぎる
灯のない家々の中にも
微かな息づかいがあるらしいが。

窓は氷嚢のように
頭を冷やして
もう眠れと訴える。

時間は命だ。
そんなのは嫌だ。

扉から初夏の風が吹き込む。

今度は
あめ玉のような
赤いテールランプが夜に舐められ
消えていく

そして、バス停には
ひっそりと私一人分の呼吸が残される。

戻る   Point(2)