陽の埋葬/田中宏輔
 

目の前に一本の道が現われた。

この道を行けば、海に出る。

ほら、かすかに波の音が聞こえる。

見えてきた。

海だ。

だれもいない。

天使の耳が落ちていた。

また、触れるまえに毀れてしまった。

錘のなかに海が沈む。

この海を拵えたのは、天使の耳だ。

忘れては思い出される海の記憶だ。

生まれそこなった波が、一本の道となる。

この道を行けば、ふたたび海に出る。


  *


月の夜だった。
わたしは耳をひろった。

月の光を纏った
ひと揃いの美しい耳だった。

月の渚、
しきり波うち寄せる波打ち際。
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