誤診/やまうちあつし
それなりに成長した木なので
横たわるとベッドからはみ出してしまいそうだ
実際、回診の時
医師は枝分かれした根っこの末端を
注意深くよけながら
ベッドの周りを移動しなければならなかった
根っこにはまだ
湿り気のある土が少なからず付着していたが
患者のたっての希望でそのままにしてある
人間の側からすると清潔とは言えないし
何よりも病室が汚れてしまうので
洗い流してしまいたいのが本音だが
せめて大地との繋がりの名残を、というのが
あちらの言い分なのだ
血圧を測る代わりに
幹の中を流れる水分の量を
蓄えられた二酸化炭素の濃度を
さすがに木は穏やかで
診察の最中も大人しく
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)