ヨル/リリー
 
て男の心の中に
  ほんのちょっぴりあった愚かな女の姿は
  次第次第に影を濃くしていく

       ★

 チリチリと鳴る氷のグラスに話が多すぎる

  ヨル
  人に逢う為に爪を磨いた女の話
  今夜は花モヨウのワンピースに少し酒の匂いがしみて
 
  きれいな爪だ
  と男は言った
  その胸の中で目をあいたまま
  女はくちづけを交わし

  男の首をしっかり抱いて
  柔らかい髪を撫でた
  何度も撫でた
  尖った爪の先に
  それはからまり
  更に細く
 
   裂けた

  月もない暗闇の夜
  男は
  女の爪だけを愛した

      ★
 ヨル
 ひとり
 オンザロックをなめながら
 暗闇の中に
 疲れた

 
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