川のある街/たもつ
 


白い形の声が落ちていた
門扉が壊れて困る、という
間違い電話だった
切ることもできず
わたしはイトヨリダイ
だったと思う
そのような体をして
傾聴した
暑くて
素麺のお裾分けが嬉しかった
性病の名前をいくつ言えるか
夏のある日に競い合った
象が好きな人だったけれど
象の飼育員にはなれなかった
わたしは出来ないことばかりが増えて
結局一度も
素麺の話をしたことはなかった
間違い電話は切れることなく
門扉に白く薄く季節の言葉が
継ぎ足されていく
例えば大きな川が流れていて
川とともに生活がある
そんな街に生まれていたら
生き方も考え方も違っていて
象の飼育員にはもう少し
色や匂いがあったと思う
三年掛かって
消えていく儚いもののように
間違い電話は切れた




(初出 R5.6.25 日本WEB詩人会)
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