台風/たもつ
 
午前、ほんの少し
台風があった
鉛筆を削る時によくやるような
些細な手違いが続き
新しい橋の開通式は
関係者とその親戚とで
執り行われていた
濡れた草むらには
観覧車が乗り捨てられていて
既に家族連れや
靴を汚した人たちが並んでいる
けれど観覧車は何もしゃべらないから
何もしゃべらない人しか乗れない
幾種類の果物を口に運ぶように
俯いたまま眠れるような人が
好きだったことがある
結局、他の職業に就いて
体の中で終わっていくものも
それなりにあった
橋の向こうから
あまりよく知らない人が
手を振っている
観覧車、どうですか
声をかけたけれど
草むらのそれはもう
翅のある虫になっていて
空に飛び立つところだった


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