Overlap/塔野夏子
 
そして私は迷い込む
静かな五月の夜
輪郭を失くした処に

複流し
伏流する時の中で
淡くオーヴァーラップするのは
私の意識と
君の意識か

(私とは)
(君とは)
谺のように出会う
輪郭を失くしながら

彷徨う
静かな五月の夜
薫る風の遠くで
泉のように湧きだすおびただしい貌
の中から
(君は)
(私は)
どれを選ぶ

たちどころに時は還流し
谺のように出会う
此処では 見ることは
触ることと ほぼおなじ

楔に打たれた記憶が
啼いていても
かなしみと名づける前に
ためらうことで
紡がれてゆく輪郭が
淡くオーヴァーラップして

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