木の戦争/やまうちあつし
木と木が戦争を始めた
理由は
神から見れば些細な話だったが
当事者にとっては重要な案件だった
どちらの枝がより高く
空を侵しているか
どちらの根がより深く
土をまさぐっているか
養分のつもりで吸い上げたのは
誰かの血液だった
光合成のつもりで浴びたのは
何処かの放射能だった
戦争で
自分でないものに変わってしまったのか?
戦争で
よりいっそう自分自身に近づいたのか?
葉のない枝の先端で銃をつまみあげ
知人や他人を撃ち抜こうとかまえてみるが
引き金が上手に引けない
木は首をかしげた
ひょっとして自分らは
殺し合いには不向きなのでは
そんなこと
誰にもわからないよ
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