街/あらい
取り敢えず瘡蓋もとれない。咲き乱れる野山だと思っても牡丹はそこにいる。
足が滑っても先へ進みたい、どこか転がっても構わない、夜に溶けていく涙声が忘れられ
ない。風に千切れたヒトのすがたが思い出せない。ザクザクと投げ込んだ石が嚥まれてい
く。雨上がりだった、広大な肥沃であった、これからだった。
サンドイッチをひとつ注文した、甘いような苦いようなマーマレードで、ラジオから上品
な歌声が聞こえる。唇を震わせて鳥が囀るようだ。口の中がぼそぼそといっぱいになる。
鈍臭く微笑を噛み殺しアンバランスな出で立ちを残し、まま、席を立ち会計をあとにする。
活気づいた朝が置き去りにしたハンカチ一枚にまた波が押し寄せるように、どこか遠くへ
運ばれて。摘まれた花、野畑の艷、水を含んだ、暁光のかおりがこの今へと溶けている。
2023-03-19
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