タクシードライバーの話/板谷みきょう
だと医者に言われましたが
何とか命は助かったんです。
でも
半身麻痺で歩けなくなり
言語障害と記銘力障害で
満足に話せなくなって
物を覚えられなくなってしまった。
家族の顔は覚えてるらしいんですが
毎朝、目覚めると何処に居るかを
覚えてないらしいです。
息子も高校生になりましたが
家庭内暴力が酷くて
警察にも何度もお世話になり
精神科にも掛かっています。
あの時
息子の電話で帰っていたら
こんな風になって無かったんじゃないかと
悔やまれてならないですよ。」
いつも施設のルームの片隅で
独り俯きながら
他の入居者達の動向を
恐々眺めて過ごしている
三十歳半ばの女性は
やっと担当のボクを覚えてくれ
白衣を着てルームに行くと
目敏く見つけ
パッと顔色を替えると
車椅子を漕いで
来てくれるようになった。
暫くして
タクシー運転手の夫が話してくれた
誰にも話せなかったこと。
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