アップルパイ/リリー
 
 京都駅構内のアスティロード商店街を抜けて
 おもてなし小路を行くと連れの彼女が独りごちる
 「うわ、六百十五円やて!」

 何事かと 彼女の視線みると
 老舗珈琲店の店先ショーケースにはりついていて
 「何が、ほんまやな!高っ。」
 店内カウンターに居る黒いスーツの男にまる聞こえ
 僕ら、慌てて立ち去ったんだ

 地下街へ入ろうとしたのに彼女がもう一度
 さっきの店へ行きたいと言う、その屈託ない瞳
 今度はスーツの男が奥に居るのを確かめて
 ショーケース端っこで佇んだ

 カスタードクリームないみたい。
 薄切りのアップルフィリングが重なってる。
 パイ生地も柔
[次のページ]
戻る   Point(8)