ベルゼバブ。/田中宏輔
先を丹念に熱せられると、こんどは、それを老人のうなじに押し当てられたのでございます。老人は、グアーッという、獣じみた声を発して床の上に這いつくばりました。ベルゼバブさまは、その様子を飽かずに眺めておられましたが、わっしらもまた前脚をこすりながら、手術台の上に横たえられた女の死骸の上から、その這いつくばった老人の背中を見下ろしておりました。それは、毛をむしり取られ、傷だらけにされて群れから追い出された老いぼれ猿のように、まことに醜く無惨な姿でございました。ベルゼバブさまが、このような老いぼれ猿の姿をごらんになられて、いったい、どのようなお歌をおつくりになられるのか、ほんに、楽しみなことでございます。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(13)