ベルゼバブ。/田中宏輔
コーヒーを飲み終えられたベルゼバブさまは、机の上に置かれたアルコールランプを手元に引き寄せられると、指を鳴らして、火花を発して火を灯されました。すると、ベルゼバブさまの前に坐らされておりました老人が、ビクンッと躯をふるわせて、そのゆらゆらと揺れ動くアルコールランプの炎に目をやりました。はじめてアルコールランプといったものを目にしたのでしょうか、ほんに、その眼差しは、狂った者の、恍惚とした眼差しでございました。ベルゼバブさまは、しばらくのあいだ、その老人の顔を眺めておられましたが、白衣のポケットから、折り畳まれたハンカチを取り出されると、それでスプーンの柄を持たれて、アルコールランプの炎の中に、ス
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