『斎藤茂吉=蠅の王(ベルゼバブ)論』。/田中宏輔
 
けふもまた向ひの岡に人あまた群れゐて人を葬(はふ)りたるかな(『赤光』)

墓はらを歩み来にけり蛇の子を見むと来つれど春あさみかも(『赤光』)

朝あけていろいろの蛾(が)の死(しに)がらのあるをし見れば卵産みけり     (『白桃』)


 これらの作品には、どれにもみな、ボードレール的な美意識が表出されているように思われる。


ものぐるひの声きくときはわづらはし尊(たふと)き業(なり)とおもひ来(こ)しかど (『白桃』)

十日なまけけふ来て見れば受持の狂人ひとり死に行きて居し(『赤光』)

死に近き狂人を守るはかなさに{ルビ己
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