詩情よ、その街路を/ホロウ・シカエルボク
で歩く気はない、海沿いの寂れた住宅地に向かおう、錆びたトタンの並んだ家屋の間を抜けるのもいい、海の側に住むのはどんな気分だろうか、台風の日には少し落ち着かないかもしれない、波の音をいつでも聞いていられるのは素敵なことかもしれない、でもそれにしたって結局、どんな人生を歩くかに付随する事柄に過ぎない、俺は走り出す、レオス・カラックスのあの映画みたいにさ、少し前に耳にしたデビッド・ボウイのせいかもしれない、モダン・ラブは流れていたはずだ、アレックスはなんて言ってた?誰にでもなく俺は問いかける、なあ、あのとき、アレックスはなんて言っていたんだ?「腹にコンクリが詰まってる」そうさ、確かそんなことを言っていた、腹にコンクリが詰まってる、生活をやり直すんだ、誰だってそうさ、本当は誰だってそんなことを感じているに違いないんだ、問題は対処さ、抗うのか、受け入れるのか、その選択はそれからの人生をはっきりと分けてしまうぜ、俺はスピードを上げる、冷たい風は向かい風になって俺の速度を落とそうと試みる、レールに乗って並走するカメラクルー、そのレンズからこちらを眺めているのもやはり俺自身の眼なのだ。
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