月の寺の男/リリー
 
 酔った男が管を巻いている
 青い月の光の中に
 しわがれた声で管を巻いている
 ヨロヨロと時によろめいて
 松の根方に坐りこんでしまうのだが
 男の声は途絶えない

 月の光りの流れの中に
 男の声は悲痛な叫びの様にも聞こえる
 寺のきざはしの蔭から
 遠いさざ波の様にその声が帰って来る

 長い時間
 男は時に叫び 時に呟いていた
 酔いのさめてきたらしい男は
 小刻みに震えていた

 男の震え方は次第次第 大きくなっていった
 まるで波のうねりにまきこまれた様に
 男は瞳の奥迄 震えていた

 月の光は益々鮮やかになったのに
 一ヶ所に釘づけになった 男の影が、
 震えながら何処かに拡がっていくのが見えた

 拡がりながら消えていく影を男は追おうともしなかった

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