体温/たもつ
 

時折親切な人がいて、このまま直進ですと
道順を教えてくれる
隣の車線から特急列車が追い越していく
あれに乗れば速く行けるのに、と思うけれど
速さという苦しさを避けるために
このエスカレーターに乗ったはずだった
このまま、この速度でどこに行こうとしているのか
人生はエスカレーターで下りるようものだ
そんな例え話ではなく
今ここでエスカレーターに乗っていることは
紛れもない現実に他ならなかった
ザリガニは泥のあるところに穴を掘り
新しい生活を始めた
これでザリガニともお別れなのだとわかった
やがて昔みたいに恋人ともお別れするのだろう
手を握りしめる
お互いの体温が共有される
温かいね、という言葉を聞いて
恋人はもういないと初めて知った


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