職歴/本田憲嵩
 
ちづくったのだった。かれは緑色の迷彩服を着ていてベンチから俊敏に立ちあがったかとおもうと、ぼくにむかってとてもたのもしい敬礼のポーズをとったのち、公園の中心のあたりまで規則ただしい時計の秒針のような歩調で行進しはじめた、いつのまにか物干し竿くらいに伸びているその杖をまるでカカシのように肩に担ぎ込んで、コマのようにくるくると旋回しはじめたのだ。それにともなって強烈に舞いあがるつむじ風と砂ぼこり。ぼくの呼びかける声なんてまるで聞こえちゃいない。かれはそのままみずからの身体をヘリコプターのプロペラそのものとして、そのまま春の青い上空へといきおいよく飛びたっていってしまった、とてもごきげんな笑顔を浮かべながら。ついには春空の直線となり点となりやがて完全に消えていってしまった。あとに残されたものは、砂ぼこりで咳き込む喉と砂まみれになった薄い春物のベージュのコートとみだれにみだれた頭髪の髪型。ぼくはひとさまの過去にはあまりむやみにやたらと触れるものではないものだとおもった。


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