デスマスク/ただのみきや
 

 だが快楽を知らず
創作とは名ばかりの自慰にふける者
飲むほどに乾く泉から離れられなくなった
 巡礼者の成れの果て

  *

樹々の間を遠くから
幼子を抱いた父親が歩いて来る
春にはまだそぐわない花のように
小さな赤い帽子がゆれている
ガラス越しでもないのに
景色はわたしの息を映し
おぼろげで病んでいたが
ふとした歌声がこころの表に皺を残していった
包み紙の中の顔はどんなだろう
生を悲観し死を楽観する
採り残された去年の果実のよう
瞳の奥深くに隠れている
黒い涙形 いっぴきの蝙蝠よ


                    (2023年4月16日)









戻る   Point(1)