解答用紙/たなべ陽太郎
れてくる水は澄んでいて川床が見えた
銀色の魚が尾を振りながら泳いでいる
水の匂いを運ぶ風が頬に触れた
風は止み陽が射して川面が光った
「答えはないのだよ」
どこからか声がした
振り返り辺りを見渡したが誰もいない
「解答用紙はいらないのさ」声は続いた
えっ、解答用紙はいらない?
「そういらない、水の流れに答えを書いても次々に消えていくだろう、解答も解答用紙ももともとなかったのさ」
その瞬間、気づいた。答えを書くことを拒否した自分は本当は激しく答えを求めていたことに。
靴が滑りながら急な斜面を下りた。河川敷にはタンポポが咲いていた。水際まで行きしゃがみ込んだ。
透明な水は柔らかな波紋を作り空を映していた。ポケットから空欄の解答用紙を取り出し水面に浮かべた。
紙は上下に揺れながら流れていき見えなくなった。
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