それが一匹、目の前にいる/印あかり
 
それが一匹、目の前にいる

それは狂暴ではなく、捕獲も容易だが
肉が硬く、臭くて食べられない

猫や犬のように見た目が可愛くもなく、
吃驚するほど大量の餌を必要とするので
飼育にも向かない

目に映るもの何でも食い散らかしてしまう
この辺りの人たちにとっては困り草だ


それにとって、あれは天敵である
あれは光輝く毛並みと、
人懐こい笑顔を湛えていて、
この辺りの人たちにはとても好かれている

しかしその眩しさゆえに影が濃く、
うっかりあれの影をまじまじ見つめてしまうと
足を喰われて帰ってこられなくなる


それはこちらをじっと見ている
毛を逆立て、目を凝らし、耳を澄ませている様子だ

わたしは彼を抱き抱えようとした
バクリ、思いもよらなかった力で
人差し指が喰われた

でもわたしは怒る気持ちになれなかった
流れる血で、彼の絵を土に描いた


遠くであれが鳴く声が聞こえた
わたしとそれは暫く見つめあっていた
やがてそれはわたしの描いた絵の上で丸まり、
眠りはじめた


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