伊藤さん/ちぇりこ。
 
んて)
そんなに変かな捕食されない為の営み
(変…です…)
羽化の技法はマサチューセッツでは
ロストテクノロジーなのだという
ダマスカス鋼の製造法みたいなものだろうか
(ちょっと…違う)
ぼくもいつか夕暮れどきに羽化して
アンドロイドになろうかな
(やめれ…)

ぼくと伊藤さんは川辺りの道を歩く
ぼくの1歩後ろくらいから
小刻みな歩行の駆動音が聞こえてたんだけど
川面を滑る風の音にかき消されたんだろうか
聞こえなくなる
振り返ると
伊藤さんは土手っ腹に膝を立てて座っている
ぼくはその隣りに行き
草むらに寝ころんで空を見上げる
雲と雲の間にぽっかり空いた青を見る
(葉緑素…って…)
伊藤さんは言いかけて止める
ぼくと伊藤さんの間には丈の低い草が
草の上には小さな羽虫が
小さな羽虫は小さな蟷螂に捕食され
時折りの涼風が草の頭を撫でて行く
ぼくと伊藤さんの距離はそのまんま
人間とアンドロイドの距離感なんだろう
伊藤さんも空を見上げる
(もうすぐ…夏が…)

もうすぐ夏がくる



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