なにかを考えるとき、もう時計に目をやることはないだろう/ホロウ・シカエルボク
 
でもいい…目を閉じていると存在などという定義は便宜上のものでしかないのだと、本当はみんな、世界の中にふわふわと漂うあやふやな意識に過ぎないのだと、そんな気分になった、みんな嘘をつかれている、そしてあえて騙されている、どうしたって生きる場所は定められている、それは決められた範囲ではなく、ひとつの存在の許容量というような意味合いである、帰るべきだと思ったけれど動きたくなかった、なにかがそこで待っているような気がした、でもどれだけ待ってみてもなにも起こらないだろうことも同時にわかっていた、真実なんてそのとき摘み上げたものに書いてある名前に過ぎない、選んだ真実、選ばれなかった真実、そこには認識されたかされなかったかという違いしかない、おそらくはそこにある質量にもたいした違いはないだろう、失われた聖堂の中はなにも産まれない海だった、かつてそこに在った祈りは灰になってそこら中に積もり、聖歌は霧散して風に消えてしまった、けれど、耳をすませ、記憶は鳴り続ける、ここにあったもののことを思い出せないなんてことはない、ふたたび歩き出す時までには、それは身体の中で小さな光になるだろう。


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