どんなに夢中な世界だって隙間はもっと広い/菊西 夕座
 

わかれの歌が、近づいて わたしの口に
  入ろうと するも留守です。
きた甲斐もなく 歌、引きかえそうとして
  北風にうたれました。来たばっかりに。
ライラックの花が くちびるにながれて、
  くちはてる歌が リラ色に沈みます。
しずまりかえる 調べを 留守歯んがすきまから
  スゥスゥもらし くち荒みます。
おさないころの 淡い 恋のひとが
  不意に帰りきて 夢のなかでほほえみ、
はにかむわたしの 手をふる 袖口は、
  ひらひらりらと歌い ちぎれ深まる深淵。

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