ある幻影/リリー
紅い花ばかりだった筈の花屋の店先
それらが皆
薄い白色になっているのを確かに認めた
あの人が色素を吸いとっていったのか
だとすれば今頃
あの人が何処を彷徨っているのかは
解らないけれど
あの人の頭の中も心の中も
いや 足の裏さえも
真紅になっているに違いない
瞳にかかる薄い膜も
真紅にちがいない
涙も紅く流れるだろう
私は駅構内の花屋の前で
あの人の立っていた跡に立ちながら
ああ あの人を
追うべきだったと思いつづけた
夢の 話ではございません
さあ蓋を開けて
どうぞお召し上がりくださいませ
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