節分/平瀬たかのり
 
 深夜から勤務の節分は
 その年幾度目だったろう
 もう分かっていた七時過ぎの休憩
 だから持ってきていた
 サッポロ一番味噌ラーメン

 休憩室のガスコンロでぐつぐつ
 さて、からだも冷えているから
 いただきますよっと
 
 いつもの丼に移し入れたとき
 「おい、旨そうやな 汁だけくれぇや」
 シルバーパートのカワタさんがこっち見て

 汁だけ? 汁だけくれってか?
 あのな、わしゃダンナか?
 家とちがうぞ
 
 汁だけあげるわけにもいかないので
 いつもの汁椀に三分の一ほど分けたのだ

 「あー、旨いわ 温もるわぁ」 
 はい、そりゃよかったでございます
 笑てるで、笑てるで、おい

 カワタさんが勤めをやめてもう三年ほどになる

 それからカワタさんは旦那さんを亡くしたけれど元気だ
 ときどき買い物にやって来る
 「おい、どないしとんどいや!」
 相変わらずの播州弁丸出しで
 あの笑い顔で
 リサイクルボックスの回収を
 手伝ってくれたりする

 今年も節分がやってくる
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