ゆうぐれの地図/キキ
 
雑音まじりのレコードを絵にしたら
古いテレビの画像みたいになって
鳥と葉っぱの区別がつかなくなった
川べりを歩く ゆうぐれ

右の道が途切れると
橋をわたる
左の道が終わりそうになったら
もう一度
頭のなかの地図はあいまい


最後の橋をわたり終えるころ
風が吹いてくるので注意するように
すすけた欄干にもたれ
ニット帽で隠した耳のことなど思い出しながら
空を見上げるように


風の吹いてくるほうから彼らはやってくる
あれは鬼、そしていとおしい影


神社のすこしてまえ
木々が濃くなっている場所まで歩いたら
その階段に腰をおろし
空を見上げるように
鳥と雲と枝の影はやわらかにまじり合って
つめたい空気が満ちてくる

唐突にかれの名前を思い出すかもしれないが

水と草の香りは
孤独とうつくしさを表しているので
それで満足するように
そして声などかけずに
影たちのせなかをしずかに見送るように



             【初出】さがな。第七十九号(2004/11/28)
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