湖と瓦礫/ねことら
エアポンプから、水と空気がないまぜに砕かれ、一粒一粒の静寂に溶けていく音が聞こえる。遠くに暗闇の気配がある。僕の手の届く、このせまい暗闇とはたぶん質量が違うのだろう。持ち重りのする、ゆるい輪郭の夜だけを抱き寄せながら眠りにつく。冬の固い時間は、夜の底を針で掻くように、きりきりと線描しながら進んでいく。
手配したチケットがオンラインコードで届く。入口で承認されるための仕組みなんて、数限りなくある。符号と認識。チェックポイントをひとつひとつやり過ごしていくことが生きることだと仮定する。誰と何のために進むチケットだっただろう。標識は剥げかけていて、どこか懐かしい角度であちら側に刺さっている。
乾かした光を抱きたい。湖と瓦礫。僕はやさしくなんてないけれど、隣人の務めとして透明な表情で笑っている。
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