かさ/ひだかたけし
あなたの空に
雨は降り
震えながら
明日はない
と、
今宵だけ
あなたの胸から
流れ出る、
遡る時間
失われた記憶
寝台列車が発車する
カンカン鳴る踏切警報機、
幾つも幾つも後にして
沈み込むように
深夜を抜け
夜明けの薄闇に
人家の庭先を過り
あなたを泳ぐ
あなたと泳ぐ
太陽と大洋が
交わり合って
境界を越える
処まで今日も
雨は降り続け
やがて、
雪になる
溶かして
胸の内に
あなたを溶かす
わたしの胸の内に
わたしの空に
雨は降り
かさがない、
かさはいらない、
フリーズしていた
遠い記憶、
次々と次々と
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