星涯哀歌 2/佐々宝砂
 
長い髪は
一本残らず白かった
乾いた額には
まるで張りがなかった

けれど
一筋の年輪も刻まれてはいなかった

陽光に光る白髪が
宇宙の漆黒の色と見えたのは
ぼくの気のせいだったかもしれないが

長く星間船に乗っていると
ああなるんだ と
冷凍睡眠と覚醒を繰り返すたび
髪は白くなってゆくんだ と

確かに誰かが教えてくれたのだった

午後のカフェのいつもの席で
甘ったるいカフェオレをすすりながら
ぼくは
通り過ぎていった
白髪のアストロノートのことを考える

やがて
ぼくの額に深い皺が刻まれ
ぼくの髪がすっかり白くなったとき
宙港近くの街角のカフェで
今日と変わらぬカフェオレを飲みながら
ぼくは発見するだろう
今日と変わらぬ姿で
白髪のアストロノートが
ぼくの前を通り過ぎてゆくのを

白いまつげにふちどられた
アストロノートの茶色い瞳は
今日と変わらず
遠くを見ているだろう

遠い空を
いや

遠い時を

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