漂着せずに深海へ/ただのみきや
相互喪失
懐中時計のなかで時間は眠っている
ただ機械の心音だけが
時不在のまま静かに続く
蓋が開いたらいつも「今」
観察者の視線など気にはせず
ひたすらに死の距離をこまめに削る
秒針はいまひと刻みを越えられずにいた
震えていた
抗うこころはもはやなく
戸惑いながらも甘んじて
身を任せることに慣れ切った
そんな矢先のことだった
背中に圧力を感じながら次々と
時の細波に追い越されてゆく
不安は空回る
距離を刻み続けては来たが
今がどの辺かは解っていなかった
――――辿り着いたのか
圧力を感じられなくなったころ
震えも止まっていた
何時 何
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