甕/まーつん
蝶を追いかけて野原に遊ぶ子供が
夜の闇に家路を盗まれるように
今、僕は独りぼっち
心はとっくの昔に醒めて
それを熱く沸かせていた火も
今はもう、小さく縮んだ舌で
甕の底をちろちろと
舐めるだけだ
その甕は
僕という人間そのままに
小さい器でしかなかったけれど
この年老いた子供は
後生大事に、それを抱えて
家路を見つけようとしているんだ
太陽より、ずっと冷たく
けれど、ずっと鋭く照らし出す
月と星の、明かりを頼りに
今も泡は昇ってくる
甕の水面に弾けている
かつてより、ずっと少ないけど
望むらくは、ずっと懸命な言葉が
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