さまよう地下茎/ただのみきや
銀杏(いちょう)さざめくつめたい朝
靴を片方なくした人影を見た
暗幕の蝶も枯葉に埋もれ
くちびるにもうふれることはなく
寝息のように自転車は
静かに時計を回している
釦(ボタン)にまつわるけむりの獣
美しく引き攣っては風に溺れ
交わることのないふたつの弧線
影と音 いつかまたすれ違うだけの
空白の懐に顔を埋め
誰の匂いをたずねて濁るか
問う前に問われ
答える前に答えを上塗りされて
塞がれたまま兆しを見つめる
ひとつの水として眩んで今
*
風に追われる落葉のよう
軽々しく列挙され
なみだも笑
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