さまよう地下茎/ただのみきや
 
銀杏(いちょう)さざめくつめたい朝
靴を片方なくした人影を見た

暗幕の蝶も枯葉に埋もれ
くちびるにもうふれることはなく

寝息のように自転車は
静かに時計を回している

釦(ボタン)にまつわるけむりの獣
美しく引き攣っては風に溺れ

交わることのないふたつの弧線 
影と音 いつかまたすれ違うだけの

空白の懐に顔を埋め
誰の匂いをたずねて濁るか

問う前に問われ
答える前に答えを上塗りされて

塞がれたまま兆しを見つめる
ひとつの水として眩んで今






風に追われる落葉のよう
軽々しく列挙され
なみだも笑
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