腕時計私怨-その奇妙な習慣について/岡村明子
時の囚人
厳密に言えば
手首時計
であろうに
腕時計
としたのは
そのグロテスクさを
少しでも和らげようとした
知恵だろうか
どこにいても
誰であろうと
同じときに
カチ
と
動く
その機械
その音が
世界に調和する符牒であるのか
すでに
大きな
時
に
支配されているのに
カチ
という音を聞くたび
人々の顔がなくなって
腕のベルトだけの存在になる
めまいがする
世界の一枚外側にいたとしても
時計に
腕をつかまれるのだけは
ごめんだ
そういうわけで
私は腕時計をしない
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